「え、これ私の脚?」
「横から見ると、ふくらはぎだけ前に出てない?」
「前はこんな形じゃなかったと思うんだけど」
銀座や東銀座で働いている方から、この話をよく聞きます。ショーウィンドウに映った自分の横向きとか、誰かが撮ってくれた写真とか、そういうところで初めて自分の脚を横から見る。それで「ん?」となる。正面の鏡は毎朝見ているのに、横は見ていないんですよね。そして思い当たるのが「そういえば毎日ヒールで通勤している」。この順番で相談に来られる方が多いです。
結論:形が変わったように見えるのは、骨そのものが変わったからではないことがほとんどです。靴の中で足首が動く範囲が狭くなって、そのぶんの仕事が上に回った結果として出ています。だから私が見るのは脚の太さではなく、足首がどこまで曲がるかと、足の裏のどこで地面を押しているか。ここが戻ると、見え方も変わってきます。ただし出方には個人差があります。
ヒールを履いているあいだ、足首はどうなっているのか
ヒールを履くと、足首はつま先が下を向いた角度で固定されます。かかとの高さが決まっている以上、立っていても歩いていても、その角度から外れられません。通勤とオフィスにいるあいだを足すと、一日のうちかなりの時間、足首は同じ角度のままです。
このとき、ふくらはぎからアキレス腱につながる筋は、縮んだ長さのまま働き続けることになります。力を出していないわけではなく、歩けば毎歩使われます。ただ、使われる長さの幅が狭い。長い距離を伸び縮みする機会が減って、短い側だけで仕事をしている状態が続きます。
なぜ「よく使う長さ」に寄っていくのか
筋は、よく使われる長さに合わせて働きやすい範囲が寄っていきます。伸ばされた状態をあまり経験しない期間が長くなると、その方向へ動かしたときに早い段階で抵抗が出るようになる。怠けているという話ではなく、体は使っている範囲に合わせて最適化していくものだ、というだけです。
問題は、その結果として足首を深く曲げる側、つまりつま先を上げてすねを前に倒す側の可動域が減ることです。歩くときも、しゃがむときも、階段を下りるときも、この方向の動きが要ります。ここが減ると、本来なら足首が引き受けていた分が引き受けられなくなります。
足首で吸収できない分は、どこへ行くのか
上に回ります。足首で使えなかった分は膝と股関節が肩代わりすることになって、特に前ももが余計に働きます。しゃがむ動作を横から見せてもらうと分かりやすくて、すねがあまり前に倒れないまま、上半身と骨盤のほうが先に動いていく。膝が前に出ない代わりに、お尻が後ろに落ちて背中が丸くなる。この形で毎日歩いていれば、脚の見え方は変わります。
だから「ヒールでふくらはぎが張る」という話に、けっこうな割合で「前ももも張っている」がくっついてきます。20年以上の指導で多いのは、ふくらはぎだけを気にして来られたのに、触ってみると前ももの張りのほうが強いというケースです。ご本人はふくらはぎしか見ていないので、これを言うと大体びっくりされます。
足の指が使われないと、押す仕事はどこに移るのか
もうひとつ変わるのが、足の裏の接地です。靴の中でつま先が窮屈だったり、足が前に滑って指が縮こまったままだったりすると、地面を押す仕事に指が参加しません。親指の付け根で押す感覚が薄くなって、その分を後ろ側、つまりふくらはぎ側が引き受けます。
もともとヒトの足は、接地するたびに足首と足のアーチが少したわんで、衝撃を分散する構造になっています。ばねのように一瞬しなって、次の一歩で返す。この仕組みが使えないまま歩数だけ積んでいくと、同じ場所にばかり負担が集まります。
当ラボが最初に見ている三つのこと
うちで最初に確認するのは、脚の太さではありません。見ているのは三つで、足首を曲げる側の可動域が左右でどこまであるか、しゃがむ動作を横から見たときにすねがどのくらい前に倒れるか、そして片脚で立ったときに足の裏のどこで支えているかです。
この三つを見ると、ふくらはぎが張る理由がふくらはぎ側にあるのか、足首と足の裏の使われ方にあるのかが、だいたい分かります。左右差が出ることもよくあって、その場合は片方だけ変えていくこともあります。なお、痛みやしびれがある場合はトレーニングの前に医師の指示を優先してください。
何から戻していくのか
順番があります。先に足首を曲げる側の可動域を戻して、次に足の指で地面を押す感覚を戻して、そのうえで荷重のかかる種目に入る。これが逆になると、狭い可動域のまま負荷だけ足すことになるので、張りが増えて終わります。
それと、履き替える機会をどこに作るかを一緒に決めます。ヒールをやめてくださいとは言いません。仕事で必要な方に「やめましょう」と言っても現実的ではないし、そもそも履くこと自体が悪いという話でもないからです。一日のうちのどこか、足首が動く時間を作れるかどうかが問題なので、通勤の片道だけ、あるいはオフィスの中だけ、といった線の引き方を探します。
ある会員のケース
30代・デスクワークの方で、毎日ヒールで通勤されていました。ご本人はふくらはぎのマッサージとストレッチをずっと続けていて、それでも夕方になると張るし、脚の形が変わってきたのが気になる、という状態でした。
見せてもらうと、ふくらはぎ自体よりも、足首を曲げる側の可動域が左右とも狭くて、しゃがむとすねがほとんど前に倒れませんでした。片脚立ちでは足の外側で支えていて、親指側がほとんど働いていない。そこで、ふくらはぎを直接ほぐす時間を減らして、足首の可動域と足の指の接地に時間を配り替えました。しばらくして、夕方の張り方が以前ほどではなくなって、しゃがんだときの姿勢も変わりました。ご本人が先に気づいたのは脚の見え方より「階段を下りるのが楽になった」ほうでした。感じ方や変化のペースには個人差があります。
通勤のなかでできること
歩きやすい靴を鞄に入れておいて、通勤の一部だけそちらにする。駅までの往路だけでも、足首が動く時間ができます。
階段は、下りるときのほうが情報が多いです。一段一段、足の裏全体で着地できているか、それとも前足部だけでトンと降りているか。後者になっているなら、足首が使えていないサインとして分かりやすいです。座っているあいだは、靴を脱いでつま先を上げ下げする。上げるほうを意識してください。下げる動きは通勤中に十分やっています。
よくある質問
Q. ヒールを履くのをやめれば元に戻りますか?
やめること自体が答えにはなりません。履かなくなっても、足首の可動域と足の裏の使われ方が偏ったままなら、状態はあまり変わらないからです。見るべきは靴の種類ではなく、一日のうちに足首が動いている時間と範囲です。
Q. ふくらはぎのストレッチだけでは足りませんか?
足りないことが多いです。ストレッチは伸ばす方向を作れますが、その範囲を歩行のなかで実際に使えているかは別の話だからです。伸ばしたあとに、その範囲で地面を押す動きまでつなげておく必要があります。
Q. 骨が変形しているということはありますか?
可能性がまったくないとは言えませんが、私が判断できる範囲ではありません。痛みや変形が気になる場合は整形外科で診てもらってください。医師の指示を優先したうえで、動かせる範囲のことを一緒に考えます。
体験について
自分の足首がどこまで曲がっているかは、鏡の前で自分では確認しづらいところです。横から見て何が起きているかを、一緒に見ます。
初回60分のカウンセリングと体験の料金は5,500円です(7日以内のご入会で初月会費から差し引き)。
【執筆者】今村 雅史(銀座トレーニングラボ代表・パーソナルトレーナー歴20年以上)
進化学・神経科学に基づいたトレーニング指導を専門とする。NASM OPTIMA 2025・2026年度講師。


