「お尻のトレーニングをしているのに、外ももばかり張ります」
「片脚立ちになると、体が横に倒れます」
「ヒップアップの種目をやると、なぜかお尻より腰にきます」
この3つは、別々の悩みに見えて中身が同じです。お尻の後ろではなく、お尻の横が仕事をしていない状態です。
結論:お尻には後ろ向きに脚を引く筋肉と、横向きに脚を開く筋肉があり、後者が働かないと骨盤が左右に安定しません。安定しない分を、太ももの外側と腰が肩代わりします。外ももの張りは、外ももを使いすぎた結果ではなく、お尻の横がサボった結果として出ていることがほとんどです。
お尻の「横」とは、どこのことですか?
骨盤の側面、ちょうどズボンのポケットのあたりです。ここに、脚を横へ開く方向に働く筋肉があります。中殿筋と呼ばれる筋肉です。
役割は、脚を開くことではありません。本当の仕事は、片脚に体重が乗った一瞬に骨盤が落ちないよう支えることです。歩くという動作は、実は片脚立ちの連続です。一歩ごとに、この筋肉が骨盤の高さを保っています。ここが働かないと、上体を反対側に倒して帳尻を合わせることになります。
なぜ、この筋肉だけ眠りやすいのですか?
現代の生活に、横方向の動きがほとんどないからです。
歩く、座る、階段を上る。どれも前後方向の動作です。人がもともと持っていた、不整地を歩く、横に踏み出して体勢を立て直す、といった動きは、舗装された床の上ではほぼ発生しません。使われない機能に対して、脳は割り当てを減らします。省エネの原則からいって当然の反応です。
そして、いったん割り当てが減った筋肉は、後ろから呼び出しにくくなります。トレーニングを始めても真っ先には反応しない。代わりに、いつも働いている太ももの外側と腰が先に手を挙げます。これが「お尻をやっているのに外ももと腰にくる」の中身です。
外ももの張りは、鍛えた結果ではないのですか?
多くの場合、違います。
太ももの外側にある大腿筋膜張筋という筋肉は、股関節を安定させる役割を中殿筋と分担しています。中殿筋が手を引くと、この筋肉が分まで引き受けることになる。一日中それが続くので、慢性的に硬く、太く見えるようになります。
20年以上の指導で多いのは、この張りを「太ももの外側が発達しすぎた」と考えて、外ももを伸ばすことばかりに時間を使う方です。伸ばした直後は柔らかくなります。ただ、翌日また同じ量の肩代わりが起きるので、元に戻ります。伸ばす側ではなく、サボっている側を起こさないと収まりません。
眠っている筋肉は、どうやって起こすのですか?
重い負荷では起きません。ここが感覚と逆になります。
負荷を上げると、体はいちばん出力の高い筋肉を優先的に呼びます。つまり、いつも働いている側です。眠っている側に信号を届けたいなら、いつもの筋肉が「自分の出番ではない」と判断する程度の軽さで、狙った方向にだけ抵抗をかける必要があります。
このときに便利なのが、軽い抵抗を横方向にかけられる道具です。私が現場でよく使うのはゴム製のミニバンド(https://amzn.to/4yfwFWA)で、膝の少し上に巻いて、そのまま横に一歩ずつ移動したり、仰向けで膝を開いたりします。器具というほどのものではありませんが、横方向の抵抗というのは自重ではまず作れないので、これがあると初期の再教育が一段やりやすくなります。自宅で続けてもらう課題としても渡しやすいものだと感じています。
当ラボの評価で見ているところ
片脚立ちを30秒やってもらいます。見ているのは、立てるかどうかではありません。
浮かせた側の骨盤が下がるか。上体が支持脚の側へ倒れるか。支持脚の膝が内側に入るか。この3つのどれかが出れば、その側の中殿筋は仕事をしていません。ほとんどの方が、左右どちらかに差を持っています。
もうひとつ見るのが、靴底の減り方です。外側の縁だけが極端に減っている方は、体重が外へ逃げていて、外ももが常に引き止めています。持ち物のほうが、本人の自覚より正確なことがあります。
順番を間違えると、どうなりますか?
眠ったままヒップアップの種目を積むと、腰が張ります。
お尻を後ろへ使う種目は、骨盤が安定している前提で成立します。土台が左右に揺れている状態で強い力を出そうとすれば、腰の筋肉が固めて代わりを務めます。ヒップリフトの翌日に腰が張る方は、回数を減らすのではなく、順番を入れ替えるほうが早く抜けられます。
横の安定を先に作る、それから後ろの出力を上げる。この順番だけで、同じ種目の効き方が変わります。
ある会員のケース
30代の方で、自宅でヒップリフトを毎日続けていたのに、お尻は変わらず外ももだけ硬くなったという相談でした。写真では、骨盤の横が落ちて見えます。
片脚立ちを見ると、左だけ明らかに骨盤が下がっていました。左の中殿筋が働いていない。この状態で毎日ヒップリフトをすれば、左は腰で、右は裏ももで持ち上げていたことになります。
やったのは、ヒップリフトを一度やめて、横方向の軽い課題を毎日2〜3分入れたことです。数週間で片脚立ちの左右差が縮んだところで、ヒップリフトに戻しました。そこからは同じ種目なのにお尻に効くようになり、外ももの張りが引いていきました。効果には個人差があります。
日常でできることはありますか
信号待ちで片脚に体重を預ける癖をやめる。これが一番手軽です。いつも同じ側に預けていると、預けている側の中殿筋は伸ばされたまま働かず、反対側の外ももが引き止め続けます。
もうひとつは、階段を上るときに膝が内側に入らないよう、つま先の方向に膝を運ぶことです。一日に何十段もある動作なので、ここが変われば練習量としては十分な数になります。
お尻や脚の使い方の評価については、筋トレをしても脚が変わらない方向けのページに考え方をまとめています。
よくある質問
Q. お尻の横が効いている感覚がありません。やり方が違いますか?
眠っていた筋肉は、働き始めた最初は感覚が薄いことがあります。判断の目安は、翌日に腰や外ももだけが張っていないかどうかです。狙っていない場所に強く出ているなら、まだ肩代わりが起きています。
Q. ゴムバンドは強度が高いほうがいいですか?
逆です。強すぎると、いつも働いている筋肉が先に手を挙げます。膝が内側に入らずに動かせる範囲でいちばん軽いものから始めてください。
Q. 毎日やっていいですか?
軽い再教育の課題であれば、毎日で構いません。強い負荷をかける種目とは別物として扱ってください。回数より、毎日途切れないことのほうが効きます。
【執筆者】今村 雅史(銀座トレーニングラボ代表・パーソナルトレーナー歴20年以上)
進化学・神経科学に基づいたトレーニング指導を専門とする。NASM OPTIMA 2025・2026年度講師。


