「週に何回来れば効果が出ますか、と聞くと、だいたい週二回と言われます」
「五十代から始めて、若い人と同じメニューで大丈夫なんでしょうか」
「一度張り切ったら三日間動けなくなって、それきりです」
運動経験のないまま50代を迎えた方から、こういう質問を受けます。頻度の話は、ネット上ではほとんど「週二〜三回」で処理されてしまいますが、実際にはそこがいちばん個別性の出る部分なんですよ。
結論:適切な頻度は、どれだけやれるかではなく、どれだけ回復できるかで決まります。回復が追いつかない頻度は、多いほど成果が落ちます。だから当ラボでは、初回に運動の量を決める前に、睡眠・仕事の負荷・食事といった回復側の条件を先に聞き取ります。
トレーニングで身体が変わるのは、どのタイミングなのか?
運動している最中に筋肉が増えるわけではありません。運動は身体に「今の状態では足りない」という合図を出す作業で、実際に作り替えが進むのは、そのあとの休んでいる時間です。材料は食事から来て、作業は主に睡眠中に進みます。
ということは、合図の回数だけ増やしても、作り替える時間と材料がなければ形になりません。むしろ回復しきる前に次の合図が来ると、身体はずっと工事中のままになります。疲れが抜けない、関節が重い、眠りが浅い、といった状態はここで起きます。
50代で何が変わるのか、変わらないのは何か?
年齢とともに、同じ刺激に対する反応が出るまでの時間が長くなる傾向があります。ただ、筋肉が増えなくなるわけではありません。適切な負荷と回復があれば、五十代でも六十代でも変化は起こります。ここは誤解されやすいところです。
変わるのは主に速さと余裕のほうです。若い頃なら一晩で戻った疲れが二日かかる。だとすれば、答えは「やらない」ではなく「間隔を空ける」です。24年の指導で多いのは、若い頃の記憶のまま初日に頑張りすぎて、その一回で運動そのものが嫌になってしまう方なんですよ。
そもそも人間の身体は、毎日全力で動く設計ではありません
狩猟採集の生活を考えると、長時間の歩行が生活の土台にあって、全力の運動はときどき起きる出来事でした。毎日ぎりぎりまで追い込む生活は、進化のどこにもありません。日常の低い活動量と、たまの高い負荷。この二層構造が身体にとって自然な形なんです。
これはトレーニング計画にそのまま使えます。毎日やるものは軽く長く、週に数回のものはしっかり負荷をかける。全部を同じ強さでやろうとすると、どちらの効果も中途半端になります。
銀座トレーニングラボでは、頻度をどう決めているのか?
当ラボでは、初回に可動域や動作の評価をしたうえで、睡眠時間、仕事の拘束時間、通勤で歩く量、食事のたんぱく質の摂り方などを伺います。同じ五十代でも、六時間睡眠で立ち仕事の方と、七時間半眠れてデスクワークの方では、置ける負荷が違うからです。
そのうえで、週一回でしっかり組む方もいれば、週二回を軽めに分ける方もいます。大事なのは回数の多さではなく、次のセッションまでに前回の疲れが抜けているかどうか。ここを毎回確認して、必要なら翌週の量を調整します。計画は決めたら守るものではなく、身体の反応を見て動かすものなんです。
「週二回来られない」は、始めない理由になるのか?
なりません。むしろ、週一回しか確保できない前提で組むほうが現実的です。その場合、セッションでやることを絞って、残りの六日は日常の中に低い活動を散らします。エレベーターを一階分階段にする、通勤で一駅歩く、といった内容です。
一週間の総量で見ると、この散らした分がかなり大きな比率になります。週一回のセッションだけを見て少ないと判断するのは、家計簿で固定費だけ見ているようなものなんですよ。
ある会員のケース
50代で運動経験のない女性の方が、脚が細くならないという主訴で来られました。以前スポーツクラブに入会したものの、初回のレッスンで強い筋肉痛が出て、そのまま行かなくなったそうです。
聞き取りをすると、睡眠は五時間台で、朝食はコーヒーだけという生活でした。そこで最初の一か月は運動の負荷をあえて低く抑えて、朝にたんぱく質を足すことと、就寝時刻を三十分早めることを課題にしました。運動量を増やしたのは、その条件が安定してからです。ご本人は後になって「先に生活のほうを直したから続いた」と話していました。感じ方や進み方には個人差があります。
今日から確認できること
翌朝の状態を、簡単で構わないので記録してみてください。起きたときの疲れの残り、階段の一段目の重さ、眠りの浅さ。これが回復の指標になります。前日の運動が適量だったかどうかは、当日の疲労感より翌朝のほうが正直に出ます。
二日たっても抜けないなら、その量は今の回復力に対して多かったということです。減らすのは後退ではなく、調整です。
よくある質問
Q. 週一回でも効果はありますか?
あります。ただし週一回のセッションだけで完結させるのではなく、日常の活動量を確保することが前提になります。頻度が少ないほど、内容の優先順位づけが重要になるので、評価に基づいて絞ることをおすすめします。
Q. 筋肉痛が出ないと効いていないのでしょうか?
筋肉痛は効果の指標としては当てになりません。慣れてくると同じ刺激でも出にくくなりますし、出たから成果が大きいわけでもありません。翌朝に動きやすいかどうかのほうが、判断材料として使えます。
Q. 持病があっても始められますか?
内容を選べば可能なことが多いですが、判断は主治医が優先です。運動制限の有無を確認したうえでご相談ください。当ラボでも、医師の指示がある場合はその範囲内で組み立てます。
【執筆者】今村 雅史(銀座トレーニングラボ代表・パーソナルトレーナー歴24年)
進化学・神経科学に基づいたトレーニング指導を専門とする。NASM OPTIMA 2025・2026年度講師。


