「産後、クランチを毎日100回やっているのに下腹だけ戻らないんです」
「筋トレ動画を真似して腹筋運動を続けているのに、ぽっこりが変わらない」
「お腹だけ痩せる方法を探して、結局続かなくて自己嫌悪になる」
そんな声を、この24年で本当にたくさん聞いてきました。特に産後の方は、出産前は普通に凹んでいたお腹が戻らないことに、焦りと不安を抱えていらっしゃいます。真面目にトレーニングしているからこそ、結果が出ないと「自分に何か問題があるのでは」と感じてしまう。でも、それはあなたの努力不足ではありません。
結論:腹筋運動(クランチ)は「お腹の筋肉を縮める」動きであって、「お腹の脂肪を減らす」動きではありません。下腹のぽっこりの多くは、脂肪そのものというより、骨盤の傾きや腹圧・呼吸の使い方によって「そう見えてしまっている」状態です。だからクランチをどれだけ増やしても、根本原因にアプローチできていないのです。
なぜ「その部分をトレーニングすれば、その部分が痩せる」わけではないのか
これは「部分痩せ」と呼ばれる考え方ですが、生理学的には成立しにくいことが分かっています。脂肪はエネルギーが必要になったときに、体全体の脂肪細胞から血流を通じて動員されます。お腹の筋肉を鍛えたからといって、その真上の脂肪細胞だけが優先的に使われるわけではありません。
つまり腹筋運動は「腹直筋(お腹の表面にある筋肉)を鍛える」運動であり、下腹の脂肪を直接減らす運動ではないのです。これがまず一つ目の誤解のポイントです。
下腹の「ぽっこり」は脂肪だけが原因ではない
産後のお客様を拝見していて特に多いのが、脂肪の量以上に「見え方」の問題です。骨盤が前に傾く「骨盤前傾」や、反り腰の姿勢になっていると、内臓が前方に押し出されるような形になり、お腹が張り出して見えます。
さらに、深い呼吸ができておらず胸だけで呼吸している方は、お腹まわりの筋肉がうまく使えず、常にお腹の力が抜けた状態になりがちです。これも下腹が出て見える一因です。つまり「脂肪」「姿勢」「呼吸・腹圧の使い方」の3つが絡み合って、あの「ぽっこり」という見た目を作っているのです。
腹直筋・腹横筋・骨盤底、それぞれの役割の違い
お腹まわりには複数の筋肉が層になっています。表面にあるのが腹直筋で、いわゆる「割れる筋肉」。その内側にあるのが腹横筋で、コルセットのようにお腹を横から締める役割を持っています。そして骨盤の底には骨盤底筋群があり、内臓を下から支えています。
腹筋運動(クランチ)は主に腹直筋を使う動きです。一方、下腹のぽっこりに深く関わるのは腹横筋と骨盤底筋群のほうで、これらは「縮める」より「正しく張力を保つ」働き方をします。ここを鍛えずに腹直筋ばかり縮める運動を繰り返すと、かえって前かがみの姿勢が強まり、姿勢が崩れてしまうケースもあります。
妊娠・出産でお腹まわりに何が起きているか
妊娠中はお腹の前面にある腹直筋が左右に開く「腹直筋離開」が起こります。また骨盤底筋群は、赤ちゃんの重みを長期間支え続けることで負担がかかっています。出産後、これらは自然にある程度戻っていきますが、以前と同じ強さ・使い方に戻るには時間と、正しい使い方の再学習が必要です。
産後の経過には個人差が大きく、痛みや不調がある場合、また腹直筋離開の状態によっては、医師や専門家の診察・指導を優先していただくことが前提になります。ここは自己判断で無理をしないでください。
当ラボでまず確認していること
当ラボで下腹のお悩みをお持ちの方をお迎えする際、最初にクランチの回数を増やすことはしません。まず確認するのは、立った状態での骨盤の位置、座っているときの姿勢、そして呼吸の深さです。
呼吸を見るときは、息を吸ったときにお腹全体(前だけでなく横・後ろも)が風船のように膨らむか、吐くときにお腹の奥から締まる感覚があるかを確認します。多くの方が、胸や肩ばかりを使う浅い呼吸になっていて、お腹の奥の筋肉がほとんど働いていません。
具体策1:呼吸から腹圧を整える
一番はじめに取り組んでいただくのは、腹式呼吸の練習です。仰向けで膝を立てて寝た姿勢で、鼻から息を吸いながらお腹を風船のように膨らませ、口からゆっくり吐きながらお腹をへこませていきます。このとき下腹を「へこませよう」と力むのではなく、吐く息とともに自然に締まっていく感覚を大切にしてください。
これを1日数分でも続けると、お腹の奥にある腹横筋が少しずつ働くようになり、内側からお腹を支える力がついてきます。
具体策2:骨盤の位置を整える
反り腰・骨盤前傾の癖がある方には、股関節まわりのストレッチと、お尻の筋肉を使う運動を組み合わせます。骨盤が正しい位置に近づくだけで、同じ体重・同じ体脂肪でも見た目のシルエットが変わることは珍しくありません。これは脂肪が減ったのではなく、内臓と骨盤の位置関係が整った結果です。
具体策3:日常の姿勢と座り方を見直す
トレーニングの時間以外、つまり日常生活の姿勢が、実はいちばん影響が大きいのです。24年の指導で多いのは、トレーニング中だけ良い姿勢を意識して、日常の座り方や抱っこの姿勢では骨盤が崩れたまま、というケースです。授乳や抱っこで前かがみの姿勢が長時間続く産後は、特にここが崩れやすくなります。座るときに骨盤を立てる、抱っこの合間に一度深呼吸をする、といった小さな積み重ねのほうが、追加のクランチよりも効果を感じやすいことがよくあります。
ある会員のケース
産後、下腹のぽっこりが気になり、自己流でクランチを続けていた会員の方がいらっしゃいました。回数を重ねても変化を感じられず、むしろ反り腰が強くなっている状態でした。
呼吸の練習と骨盤まわりのケアを中心に切り替えていただいたところ、数週間で「お腹に自然に力が入るようになった」「立ち姿勢が楽になった」という変化を実感されるようになりました。体重や見た目の変化は個人差がありますが、大切なのは「お腹の使い方」が変わったという実感そのものでした。比べる相手は、他の誰かではなく、数週間前のご自身の状態です。
日常でできること
特別な運動時間が取れなくても、日常の中でできることがあります。座っているときに骨盤を軽く立てて座る。深呼吸を1日数回、お腹を意識して行う。抱っこや授乳の合間に、肩をすくめず胸を軽く開く。こうした小さな習慣の積み重ねが、腹筋運動を100回追加するよりも、下腹の「見え方」に効いてくることが多いです。
よくある質問
**Q. 腹筋運動は意味がないのですか?**
意味がないわけではありません。腹直筋を鍛えることは姿勢や体幹の安定に役立ちます。ただし「下腹の脂肪をピンポイントで落とす」目的では、腹筋運動単体では効果が限定的だということです。
**Q. どのくらいで変化を感じられますか?**
個人差が大きく、姿勢や生活習慣によっても異なります。数週間で「使い方が変わった」実感を持たれる方もいますが、見た目の変化には時間がかかることも多く、焦らず続けることが大切です。
**Q. 産後まだ痛みがあるのですが、始めても大丈夫ですか?**
痛みや不調がある場合、また腹直筋離開の程度によっては、まず医師や専門家の診察・指導を受けていただくことを優先してください。その上で、無理のない範囲から始めることをおすすめします。
【執筆者】今村 雅史(銀座トレーニングラボ代表・パーソナルトレーナー歴24年)
進化学・神経科学に基づいたトレーニング指導を専門とする。NASM OPTIMA 2025・2026年度講師。


