夜中や早朝に脚がつる、いわゆるこむら返りが練習をした日ほど起きやすいのは、筋肉が「縮む」仕組みより「緩む」仕組みのほうが壊れやすく、その緩む働きにマグネシウムというミネラルが深く関わっているためだと考えられています。今日はその仕組みを説明したうえで、実際に良いと感じている商品も紹介します。
バスケットボールの選手や、平日に筋トレを重ねている会員さんから、「練習をした夜に限って、ふくらはぎが強烈につって目が覚める」という相談を受けることがあります。多くの方は「疲れがたまっているせいだ」と考えて、ストレッチの回数を増やすことだけで対応しようとします。それも一つの対策ですが、見落とされやすい原因がもうひとつあります。
「疲れているから」では説明がつかない理由
まず整理しておきたいのは、筋肉が動くという現象は、縮む動作と緩む動作という、性質の異なる二つの過程で成り立っているという点です。多くの方は「縮む」ほうが力を使う積極的な動作で、「緩む」ほうは力を抜くだけの受け身の動作だと感じています。しかし化学的に見ると、この理解は正確ではありません。筋肉を緩める過程も、縮める過程と同じようにエネルギーを消費する能動的な作業なのです。疲労が蓄積し、この緩める側の作業に必要な材料が不足すると、筋肉は縮んだまま戻れなくなります。これが、こむら返りの正体に近いと考えられています。
筋肉の収縮と弛緩を、化学の視点で見る
筋肉の中では、カルシウムイオンが筋小胞体という貯蔵庫から放出されると、アクチンとミオシンという二種類のたんぱく質が結びつき、筋肉が縮みます。ここで縮んだ状態から元に戻るには、放出されたカルシウムイオンを再びこの貯蔵庫に汲み戻す必要があります。この汲み戻す作業を担っているのが、カルシウムポンプと呼ばれる酵素です。
このポンプは、ATPというエネルギー物質を分解することで作動しますが、実際にポンプが利用できる形は、ATP単体ではなく、マグネシウムイオンと結合したマグネシウムATP複合体です。マグネシウムがATPの構造に結合することで、はじめてATPは分解可能な立体構造をとり、ポンプの働く場所にはまり込むことができます。マグネシウムが不足すると、この複合体の形成が滞り、カルシウムを汲み戻す作業そのものが遅れます。縮む指令は出せても、緩む指令がうまく完了しない状態です。
マグネシウムが神経の「興奮しすぎ」を抑える仕組み
マグネシウムのもう一つの役割は、神経と筋肉の接続部分での興奮を落ち着かせることです。神経の末端でカルシウムが流れ込む通り道を、マグネシウムはふだん軽くふさぐような形で存在し、必要以上に神経が興奮しないよう調整しています。これは天然のブレーキのような働きです。
マグネシウムが不足すると、このブレーキが緩み、わずかな刺激でも神経が興奮しやすい状態になります。運動によって疲労した筋線維は、もともと自分の長さや張りを感知するセンサーが誤作動を起こしやすい状態にあるとされていますが、そこにマグネシウム不足による神経の興奮しやすさが重なると、本来は静かにしているはずの神経が繰り返し発火し、筋肉に「縮め」という指令を送り続けてしまう可能性があります。夜中に突然強い収縮が起きるこむら返りは、こうした複数の要因が重なった結果と考えられています。
汗をかく運動量が多い人ほど、マグネシウムは失われやすい
練習でしっかり汗をかく方は、汗を通じてマグネシウムやその他のミネラルを一定量失っています。加えて、運動によって筋肉のATP消費量が増えると、体内で新たにATPを作り出す代謝の回転数そのものが上がります。この糖質や脂質からエネルギーを作り出す経路にも、マグネシウムを補因子とする酵素が複数関わっているため、運動量が多い人ほど、日常的に必要とするマグネシウムの量が相対的に増えていきます。食事から摂取する量が変わらなくても、消費と発汗による損失が増えれば、体内で使える分は不足しやすくなります。
なぜ体は、緩む仕組みの方を壊れやすく設計しているのか
なぜ縮む働きより緩む働きのほうが、こうした不調の影響を受けやすいのでしょうか。進化的な視点から見ると、筋肉が瞬時に縮んで力を発揮する能力は、外敵から逃げる、獲物を捕らえるといった、生死に直結する場面で優先的に磨かれてきたと考えられています。一方で、緩める働きは、危機が去った後に時間をかけて回復すればよい機能であり、進化の過程で「多少の遅れが許容される」設計になっている可能性があります。エネルギーや材料が不足したとき、体が真っ先に維持しようとするのは縮む力のほうであり、緩める作業は後回しにされやすい。こむら返りは、この優先順位づけが表に出た結果のひとつと捉えることもできます。
当ラボでの評価の仕方
こむら返りの相談を受けたとき、私たちがまず確認するのは、練習量や発汗量の変化と、水分・食事内容のバランスです。練習量だけが急に増えて食事内容が以前のままであれば、需要と供給のずれを疑います。逆に練習量に変化がないのに症状が続く場合は、睡眠不足や特定の持病、服用中の薬の影響など、マグネシウム以外の要因を優先して確認します。原因を一つに決めつけず、何が変わったのかを一緒に振り返ることを大切にしています。なお、頻繁につる、範囲が広がっている、しびれを伴うといった場合は、運動指導の範囲を超えますので、自己判断で様子を見ずに医療機関へ相談することを優先していただいています。
「摂れば治る」わけではない理由
ここまでの説明を、単純な「マグネシウムを摂れば、こむら返りが治る」という話に短絡させたくはありません。マグネシウムは小腸で吸収されますが、その吸収効率は摂取する化合物の形によって大きく異なります。酸化マグネシウムのような無機塩は、水に溶けにくく吸収されにくいため、腸に残った分が水分を引き込み、下剤として働く性質のほうが強く出ることがあります。
一方、グリシンというアミノ酸にマグネシウムを結合させたキレート形態は、小腸にあるアミノ酸の輸送経路を利用して吸収されるため、無機塩に比べて吸収効率が高く、腸への刺激も比較的少ないとされています。練習量が多く食事だけで補いにくいと感じる場合、私自身はマグネシウムグリシン酸複合体(https://amzn.to/4f3PseL)を、日々の食事の偏りを補う位置づけで取り入れることがあります。これは代謝の入口である吸収の段階を助けるためのものであり、緩める仕組みそのものを直接作り変えるものではありません。
日常でできること
まず見直したいのは、水分の摂り方です。運動中や運動後は水だけでなく、ナトリウムなどの電解質も一緒に補うことで、体液のバランスが保たれやすくなります。また、練習後にふくらはぎや太もも裏をゆっくり伸ばす時間を作ることは、緩む仕組みが本来の状態に戻る助けになると考えられています。食事では、海藻類、豆類、種実類、緑の濃い野菜にマグネシウムが比較的多く含まれています。むくみ解消や代謝の話とあわせて語られることの多いミネラルですが、こむら返りに関しては「縮んだ筋肉をどう緩めるか」という、また別の切り口から見ておく価値があると感じています。
よくある質問
Q. こむら返りは運動不足が原因ですか。
運動不足だけが原因とは限らないと考えられています。運動量が多い方でも、汗による損失やエネルギー代謝の回転数の増加によって、マグネシウムの必要量が相対的に増え、症状が出ることがあります。
Q. ストレッチだけで予防できますか。
ストレッチは筋肉の緩む仕組みを助ける一つの手段ですが、水分や電解質、ミネラルのバランスが崩れたままでは十分な効果が出にくい場合があります。生活全体のバランスを合わせて見直すことをおすすめしています。
Q. 毎晩のようにつる場合はどうすればよいですか。
頻度が高い場合や、しびれ・むくみなど他の症状を伴う場合は、生活習慣の見直しだけで対応できる範囲を超えている可能性があります。自己判断で様子を見ず、医療機関に相談することを優先してください。
【執筆者】今村 雅史(銀座トレーニングラボ代表・パーソナルトレーナー歴20年以上)
進化学・神経科学に基づいたトレーニング指導を専門とする。


