「20代の頃と同じメニューのつもりなのに、翌日どころか翌々日まで動けない」
「久しぶりにジムを再開したら、想像以上に疲れが抜けなくて続かなかった」
「これは体力がないだけなのか、それとも何か根本的に違う理由があるのか分からない」
こうした声を、50代で運動を再開された方からよくうかがいます。
結論:疲れやすさや回復の遅さは、意志の弱さや根性の問題ではなく、加齢に伴って体の回復・適応の仕組みそのものが変化していることが大きく関係していると考えられています。同じ刺激・同じ栄養をとっても、若い頃ほど効率よく回復や適応が進みにくくなる状態(専門的には同化抵抗性と呼ばれます)が背景にあり、そこに若い頃の成功体験に基づいた強度設定を重ねてしまうと、疲労だけが積み重なりやすくなります。挫折の多くは、強度と回復の設計が今の体に合っていなかった結果だと私は考えています。
50代になると、なぜ以前と同じ運動で疲れやすくなるのですか?
筋肉は運動という刺激を受けたあと、栄養と休養によって修復・強化されます。この「刺激を受けて回復・適応する力」は、加齢とともに効率が下がる傾向があると考えられています。これは同化抵抗性と呼ばれる現象で、簡単に言えば「同じ量の運動と同じ量の食事をとっても、以前ほど体が反応してくれなくなる」状態です。効率が落ちている分だけ、体感としては「同じ運動をしたのに、以前より疲れが大きく、抜けるのも遅い」という形で表れやすくなります。
回復が遅くなるのは意志の問題なのですか?
回復の速さには、自律神経とホルモン環境も深く関わっていると考えられています。運動による負荷から回復する過程では、心身を休息モードに切り替える働きや、修復を促すホルモンの分泌が重要な役割を果たします。年齢を重ねるとこれらの働き方が変化し、切り替えに時間がかかったり、修復のスピードが以前より緩やかになったりする傾向があるとされています。つまり「疲れが抜けにくい」のは、気持ちの持ちようではなく、体の内側の仕組みが変わっていることの表れである可能性が高いのです。
若い頃の「頑張り方」が今は逆効果になることがあるのはなぜですか?
多くの方が運動を再開するとき、無意識のうちに「以前できていた強度」を基準にしてしまいます。しかし回復力そのものが変化しているなかで、以前と同じ強度・同じ頻度を当てはめてしまうと、体にかかる負荷と、それを処理できる回復力のあいだにミスマッチが生じます。このミスマッチが続くと、疲労が抜けきらないまま次のトレーニングを重ねることになり、結果として「頑張っているのに、むしろしんどくなっていく」という悪循環に陥りやすくなります。挫折の原因を「継続力がなかった」と捉えてしまう方が多いのですが、実際には強度設定そのものが今の回復力に見合っていなかったケースが少なくないと私は感じています。
体はなぜ「無理をしない」方向に働くのですか?
進化的な視点から見ると、体は常に「生き延びること」を最優先に働くようにできていると考えられています。エネルギーや回復に十分な余力がないと判断される状況では、体は筋肉を積極的に強化するという「余力ありき」の適応を後回しにし、まず現状維持や省エネの方向へ働きやすくなるとされています。加齢による回復力の低下や、睡眠・ストレスなどで余力が削られている状態は、体にとって「今は適応より温存を優先すべき局面」と受け取られやすい条件がそろっているとも言えます。疲れやすさは、体が無理をさせないよう働いている結果と捉えることもできます。
当ラボでは回復力をどのように見極めていますか?
当ラボでは、年齢だけを基準にメニューを決めることはしていません。会員の方の普段の睡眠状況、日常での疲労感、これまでの運動歴やブランクの長さ、そして実際にトレーニングを重ねたあとの疲労の抜け方といった情報を継続的にうかがいながら、今のその方にとって無理のない負荷の範囲を見極めていきます。回復力は日々の体調によっても変動するため、一度決めた強度をそのまま固定するのではなく、経過を見ながら調整していくことを大切にしています。
疲れやすさに配慮した強度設定とは、具体的にどのようなものですか?
具体的には、まず運動の頻度や1回あたりの負荷を、以前の基準より控えめなところから始めます。そのうえで疲労の抜け方を確認しながら、段階的に負荷を引き上げていくという進め方をとることが多いです。あわせて、トレーニングの合間にしっかりと回復のための期間を設けること、睡眠や栄養といった回復を支える生活の土台にも目を向けることを意識しています。強度を上げること以上に、回復が追いついているかどうかを確認しながら進める設計を重視しています。
実際に強度を見直して変化を感じた会員の方の例
以前、20代の頃に運動経験があり、50代で数年ぶりにジムを再開されたものの、疲れが抜けず数回で足が遠のいてしまったという会員の方がいらっしゃいました。当ラボでお話をうかがい、以前の基準より負荷を落としたところから始め、疲労の抜け方を見ながら段階的に調整していったところ、以前ほど疲れを引きずらずに運動を継続しやすくなったという声をいただいたことがあります。これはあくまで一例であり、効果の感じ方には個人差があります。
日常生活の中でできる回復のサポートとは?
回復力を支える基本は、やはり睡眠と食事だと考えられています。特別なことをする以前に、就寝・起床の時間をできるだけ一定に保つこと、疲労を感じた日は無理に予定通りの運動をこなそうとせず休養を優先することが、回復のベースを整えるうえで役立つとされています。24年の指導で多いのは、体調が良い日に頑張りすぎて、その反動で数日動けなくなり結局トータルの運動量が減ってしまうというケースです。日々の波に合わせて負荷を加減する姿勢が、長く続けるうえでは効果的だと感じています。なお、強い倦怠感が長く続く場合は、運動やトレーニングの見直し以前に、まず医師に相談することを優先してください。
よくある質問
Q. 50代でジムを再開すると、以前より疲れやすいのは普通のことですか?
A. 加齢に伴って回復・適応の仕組みが変化するため、以前より疲れを感じやすくなること自体は珍しいことではないと考えられています。ただし疲労の感じ方には個人差があり、生活習慣や体調によっても変わります。
Q. 疲れやすいのは体力がないからですか、それとも別の理由がありますか?
A. 体力の有無だけでなく、同化抵抗性と呼ばれる回復・適応効率の低下や、自律神経・ホルモン環境の変化が関わっていると考えられています。単純な体力不足と決めつけず、強度と回復のバランスを見直すことが有効です。
Q. 疲れやすい体質でも、無理なく運動を続ける方法はありますか?
A. 以前の基準より負荷を控えめに設定し、疲労の抜け方を確認しながら段階的に調整していく進め方が有効と考えられています。睡眠や休養など回復の土台を整えることも合わせて意識するとよいでしょう。
【執筆者】今村 雅史(銀座トレーニングラボ代表・パーソナルトレーナー歴24年)
進化学・神経科学に基づいたトレーニング指導を専門とする。NASM OPTIMA 2025・2026年度講師。


