疲れが取れない原因は、多くの場合、睡眠不足そのものではなく、細胞の中でエネルギーを作る代謝の経路のどこかに目詰まりが起きていることにあります。その目詰まりを解消する鍵を握っているのが、ビタミンB群という酵素の材料です。今日はこの仕組みを説明したうえで、私が実際に良いと感じている商品も紹介します。
「しっかり寝ているのに、朝から体が重い」「休みの日に一日中寝ても、疲れが抜けた感覚がない」。パーソナルトレーナーとして24年間、こうした相談を数えきれないほど受けてきました。多くの方が、まず睡眠時間を増やそうとします。でも、それだけでは変わらないケースを、現場で何度も見てきました。
疲労とは「休養の不足」ではなく「エネルギー産生の不足」
そもそも疲労とは何でしょうか。多くの人は「体力を使い果たした状態」と考えます。しかし生理学的に見ると、疲労とは細胞、特にミトコンドリアが十分なATP(アデノシン三リン酸、体を動かすエネルギー通貨)を作れていない状態、と捉えたほうが実態に近いです。
ATPは、食事から摂った糖質や脂質を、細胞内のミトコンドリアで段階的に分解しながら作られます。この過程には大きく分けて、糖を分解する解糖系、クエン酸回路(TCA回路)、そして電子伝達系という3つの経路が関わっています。
ここで重要なのが、これらの経路のほとんどの反応が、酵素なしでは進まないということです。そして、その酵素の多くが「補酵素」というパーツを必要とします。ビタミンB群の正体は、まさにこの補酵素、あるいはその材料です。
ビタミンB群は、代謝経路のどこに関わっているのか
具体的に見ていきます。
ビタミンB1(チアミン)は、ピルビン酸をアセチルCoAに変換する酵素の補酵素になります。この反応は、解糖系で作られたピルビン酸をクエン酸回路に橋渡しする、いわば入口の関門です。ここが不足すると、糖質を食べてもエネルギーとして使い切れず、疲労物質として知られる乳酸の蓄積につながりやすくなります。お酒をよく飲む方や、糖質中心の食生活の方は、この関門でのビタミンB1消費量が増えるため、不足しやすい傾向があります。
ビタミンB2(リボフラビン)は、電子伝達系で電子を運ぶFADという分子の材料です。電子伝達系は、最終的にATPを大量に作り出す最も効率の良い経路ですから、ここが滞ると、エネルギー産生量そのものが頭打ちになります。
ビタミンB3(ナイアシン)は、NADという電子伝達系の主要な運び役の材料です。NADは体内で最も多くの代謝反応に関わる分子のひとつで、不足するとクエン酸回路全体の回転が鈍くなります。
ビタミンB5(パントテン酸)は、コエンザイムA(CoA)の材料です。脂質や糖質がクエン酸回路に入るためには、必ずアセチルCoAという形にならなければなりません。CoAが不足すれば、いくら食事からエネルギー源を摂っても、代謝経路の入口で渋滞が起きます。
ビタミンB6は、アミノ酸をエネルギー源として使う際の変換反応(アミノ基転移反応)に関わります。筋トレを習慣的に行っている方や、プロテインでタンパク質摂取量を増やしている方は、アミノ酸代謝の回転量が増えるため、B6の必要量も相対的に高まる傾向にあります。
ビタミンB12は、奇数鎖脂肪酸や一部のアミノ酸をクエン酸回路に合流させる酵素の補酵素であると同時に、神経の髄鞘(ミエリン)の維持にも関わっています。B12が不足すると、エネルギー代謝の効率低下に加えて、神経伝導そのものが鈍くなり、体感としての「だるさ」がより強く出ることがあります。
精製された食事が、この関門を弱くしている
ここで少し歴史の話をします。明治時代の日本で、脚気という病気が大きな社会問題になりました。手足のしびれや浮腫、重症化すると心不全に至るこの病気は、当時、白米を中心とした食事をしていた軍隊で特に多発しました。海軍軍医だった高木兼寛は、食事内容を洋食中心に変えることで発症率が大きく下がることを突き止めます。後に、この病気の正体が、白米の精米過程で失われるビタミンB1の欠乏症であることがわかりました。
玄米には、胚芽の部分にビタミンB1が豊富に含まれています。ところが精米して白米にすると、この胚芽部分がほとんど取り除かれてしまいます。人類が長い進化の過程で、未精製の穀物や多様な食材を食べることを前提に代謝の仕組みを作り上げてきたのに対して、精製された糖質だけを大量に摂取するという食習慣は、進化の時間軸で見ればごく最近の変化です。糖質を摂って、それを分解する補酵素を同時に摂らないという状態は、体にとって想定外の入力だと言えます。
現代の食生活でも、この構造は変わっていません。白いご飯、パン、麺類、菓子類。糖質は摂っているのに、それを分解する補酵素であるビタミンB1が不足していれば、エネルギー代謝の入口で同じような目詰まりが起きます。脚気ほど深刻な症状ではなくても、慢性的なだるさという形で、体は似たようなサインを出している可能性があります。
化学的に見ると、なぜ「補酵素」として働けるのか
ビタミンB群が代謝を助けられる理由は、それぞれの化学構造にあります。
例えばビタミンB1は、体内でリン酸基が結合してチアミンピロリン酸という活性型に変わります。このリン酸基が、酵素のポケットに正確にはまり込む鍵の役割を果たし、ピルビン酸からアセチルCoAへの変換反応を進める土台になります。リン酸基がなければ、酵素はビタミンB1を認識できず、反応は進みません。
ビタミンB2とビタミンB3も同様です。どちらも電子を受け取ったり手放したりできる、特殊な環状構造を分子の中に持っています。この構造があるからこそ、FADやNADという分子は、電子伝達系の中で電子を運ぶ役割を果たせます。構造そのものが、機能を決めているということです。
つまり「なんとなく体にいい成分」ではなく、分子の形が特定の化学反応にぴったり合うように使われている、という理解のほうが実態に近いと考えています。
なぜ「まとめて摂る」ことに意味があるのか
ここで大事なのは、これらのビタミンB群は、代謝経路の中で連続した反応に関わっているという点です。解糖系からクエン酸回路、電子伝達系まで、ひとつの経路の中に複数のビタミンB群が、それぞれ異なる関門で待ち構えています。
つまり、B1だけを大量に摂っても、次の関門でB2やB3が不足していれば、そこで渋滞が起きます。工場の生産ラインで、ある工程の担当者だけを増やしても、次の工程の人手が足りなければ全体の生産量は変わらないのと、構造としては近い話です。
私が普段、指導の合間に紹介している商品のひとつに、DHCのビタミンBミックス(https://amzn.to/4f4Q03V)があります。単体のビタミンB群のサプリメントではなく、代謝経路全体をカバーする形で複数のB群がまとまって摂れる点が、この仕組みに合っていると感じています。
ただし、原因は人によって違います
ここまで代謝の仕組みを説明してきましたが、疲労の原因がビタミンB群の不足だけとは限りません。
睡眠の質そのものに問題がある方、甲状腺機能などホルモンバランスに要因がある方、単純に総摂取カロリーが不足している方。それぞれ、必要なアプローチは異なります。
また、ビタミンB群の必要量にも個人差があります。アルコールを日常的に摂取する方はB1の消費量が増えますし、動物性食品をほとんど摂らない食生活の方はB12が不足しやすい傾向にあります。加齢によって胃酸の分泌が減ると、B12の吸収効率自体が落ちることも分かっています。
ですから、「疲れたらビタミンBを摂ればいい」という単純な話ではなく、まず自分の食生活や生活習慣のどこに負荷がかかっているのかを、一度振り返ってみることが、代謝を整える出発点になると考えています。
現場で見てきたこと
以前、慢性的なだるさを訴えていた40代の男性会員がいました。睡眠時間は7時間確保していて、トレーニングも週2回続けていましたが、疲労感だけが取れないという相談でした。
食事内容を確認すると、糖質中心の食事に加えて、ほぼ毎晩の飲酒習慣がありました。糖質代謝とアルコール代謝は、どちらもビタミンB1を大きく消費します。食生活を大きく変えずに、まず栄養バランスの偏りだけを見直したところ、数週間後には「朝の体の重さが減った」という変化を本人が実感していました。
体を鍛えることも大切ですが、鍛えた体を実際に動かすエネルギーがどこから来ているのか。そこに目を向けてみると、これまで見えていなかった疲労の原因が見つかることがあります。
【執筆者】今村 雅史(銀座トレーニングラボ代表・パーソナルトレーナー歴24年)


