「体重は戻ったのに、太ももだけ前より太い気がします」
「ズボンが腰は入るのに、ももでつかえるんです」
「そろそろ運動を再開したいのですが、何から始めればいいのか分かりません」
30代で出産を経験された方から、この三つはよく一緒に出てきます。体重という一つの数字では説明できない変化が起きているので、余計に不安になるんですよね。
結論:産後に太ももが気になるのは、脂肪が太ももだけに増えたというより、身体の支え方が変わって太ももが働きづめになっていることが多いです。だから当ラボでは、脚の種目から入りません。支える役割を骨盤まわりに戻す順番で組みます。なお、運動の再開時期については必ず医師の確認を優先してください。
体重が戻ったのに、なぜ形だけ変わるのか?
体重は身体全体の合計です。合計が同じでも、内訳と配置が変われば見た目は変わります。妊娠から出産の過程で、お腹まわりの筋肉は引き伸ばされ、骨盤まわりの支えは大きく変化します。そこから元の使い方に自動的に戻るわけではないんです。
支えが弱いところがあると、身体は必ず別の場所で肩代わりします。骨盤まわりの支えが戻っていない状態では、立つ・歩く・抱っこするといった動作の負担が、太ももの前や外側に集まりやすくなります。使われ続けている筋肉は張りますし、張った筋肉は太く見えます。
抱っこの姿勢は、身体に何を求めているのか?
赤ちゃんを抱えると、重さが身体の前につきます。前に引かれた分、身体は後ろへ反って釣り合いを取ろうとします。これを毎日、何時間も繰り返す。腰を反らせて立つ姿勢が癖になると、股関節の前側が縮んだままになり、太ももの前がさらに働きます。
24年の指導で多いのは、太ももを細くしたいという相談で来られた方が、実は一日の大半を反り腰で過ごしているケースです。太ももだけをストレッチしても、姿勢が戻れば数時間でまた同じ状態になります。だから狙う場所は太ももではなく、立ち方のほうなんですよ。
進化の視点で見ると、人間の出産と歩行は綱引きの関係にあります
直立二足歩行は、骨盤の形をコンパクトにしました。一方で出産には広い産道が要ります。この二つの要求が同じ骨盤にかかっているのが人間の特徴です。だから産後の骨盤まわりは、単に「開いたから閉じればいい」という単純な話にはなりません。
必要なのは形を戻すことよりも、その構造をもう一度うまく使えるようにすることです。支えの仕事を骨盤まわりが引き受け直せば、太ももは本来の分担に戻ります。
銀座トレーニングラボの産後の評価では、何を見るのか?
まず、医師から運動の許可が出ているかを確認します。そのうえで、呼吸に合わせてお腹がどう動くか、立ったときの骨盤の向き、片脚で立ったときに骨盤が落ちないか、しゃがむ動作で膝が内に入らないか、といった項目を見ます。
同じ産後でも、出産の経過も生活も一人ずつ違います。上のお子さんがいるかどうかだけでも、一日の負担がまったく変わりますから。評価をして初めて、その方にとっての「今できること」と「まだ早いこと」が分かるんです。
再開の順番は、どう組み立てるのか?
順番としては、呼吸と体幹の再学習、骨盤まわりの支えの再構築、両脚での基本動作、片脚での動作、そして負荷を足す、という流れになります。太ももを細くしたいという目的でも、入り口は太ももではありません。
なぜかというと、支えが戻る前に脚の種目を足すと、いま働きすぎている場所にさらに仕事が増えるからです。細くしたい場所を鍛えると太く感じる、という体験の多くはここから来ています。結果には個人差がありますし、痛みや出血、違和感がある場合は運動を中止して医師に相談してください。
ある会員のケース
30代の女性で、第一子の出産から半年ほど経って来られた方がいました。主訴は太ももの太さでしたが、生活を伺うと抱っこの時間が長く、立っているときはいつも腰が反っていました。片脚立ちでは骨盤が大きく落ちていました。
そこで最初の期間は脚の種目をほとんど入れず、呼吸と、骨盤を水平に保つ練習だけにしました。あわせて、抱っこのときに肋骨を引き下げて立つ形をお伝えしました。しばらくして「太ももより先に、夕方の腰の重さが減った」と話してくれました。太ももの見た目についてご本人が変化を感じたのは、その後です。
育児の合間にできること
抱っこをしていない短い時間に、壁に背中をつけて立ち、腰と壁の隙間を少しだけ埋めるように息を吐いてみてください。反りが強い方は、これだけでも太ももの前の張り方が変わります。
もうひとつ、床の物を取るときにしゃがむ動作を、膝からではなく股関節から折る形に変えてみてください。一日に何十回もある動作なので、ここが変わると効果の積み上がり方が違います。
よくある質問
Q. 産後どれくらいから運動を始めていいですか?
時期は出産の経過によって変わるので、必ず医師の確認を優先してください。健診で問題がないと言われてから、負荷の低いものから段階的に始めるのが基本になります。
Q. 骨盤ベルトは使ったほうがいいですか?
使って楽になるなら、補助として使って構いません。ただし、ベルトは支えを外から足すものなので、外したときの支えを作る取り組みと並行するのがおすすめです。使用方法は購入先や医療機関の指示に従ってください。
Q. 太ももを細くしたいのに脚のトレーニングをしないのは不安です。
気持ちは分かります。ただ、今すでに働きすぎている場所に仕事を足すと、張りが強くなりやすいんです。支えが戻ってから脚の種目に入るほうが、結果的に早いことが多いです。順番の理由を毎回お伝えするようにしています。
【執筆者】今村 雅史(銀座トレーニングラボ代表・パーソナルトレーナー歴24年)
進化学・神経科学に基づいたトレーニング指導を専門とする。NASM OPTIMA 2025・2026年度講師。


