「怒られそうで怖いんですけど」
「体力に自信がないので、途中で倒れないか心配です」
「食事も全部報告しないといけないんですよね?」
問い合わせの段階でこう聞かれることが、本当に多いんですよ。パーソナルトレーニングという言葉に、いつのまにか「追い込まれる場所」という意味がくっついてしまいました。
結論:追い込むことは手段のひとつであって、目的ではありません。特に下半身の形を変えたい場合、追い込む前にやることがあって、そこを飛ばして追い込むと、変えたい方向と逆に進むことがあります。
「追い込む」というイメージはどこで作られたのか
短期間で体重を大きく落とすことを売りにしたサービスが広まった時期に、テレビCMやビフォーアフターの見せ方を通じて、この印象が定着しました。強い言葉で励ます、限界まで挙げる、食事を厳しく管理する。分かりやすいので広まりましたし、実際に体重を落とすという一点では成立する方法でもあります。
ただ、それは「体重を短期間で落とす」という目的に最適化されたやり方なんですよ。脚だけ細くしたい、下半身の形を変えたいという目的は、そこと別の話です。
追い込むことで何が起きているのか
高い強度で限界近くまで筋肉を使うと、その筋肉に強い刺激が入ります。ここまでは狙いどおりです。問題は、限界に近づくほど、身体は「使いやすい筋肉」に仕事を寄せるということです。
前ももで支えるクセがある人が限界まで追い込めば、前ももがさらに優先的に使われます。神経のつながりは、繰り返した動きほど太くなります。つまり追い込むという行為は、その人がすでに持っているクセを強化する方向にも働くわけです。脚を細くしたい人が、これを毎回やったらどうなるか、という話なんですよ。
だから当ラボでは、順番を先に決める
最初にやるのは、どこで支えているかを見ることです。立ち方、歩き方、しゃがみ方。この3つで、その人が普段どの筋肉に仕事を寄せているかがだいたい見えます。
そこで前もも優位、ふくらはぎ優位といった偏りが分かったら、まずその配分を変える練習をします。重さはほとんど使いません。強度を上げるのは、支える場所が変わってからです。順番を守ると、同じ重さを扱っても効いている場所が変わるので、脚の形が変わっていきます。
「楽そうに見えるけど、それで効くんですか」と聞かれる
よく言われます。最初の数回は、傍から見ると地味なんですよ。ただ、やっている本人は「今まで使っていなかったところが効いている」と言います。使っていなかった場所は弱いので、軽い負荷でもちゃんと疲れます。
20年以上の指導で多いのは、キツさと効果を同じものだと思って来られる方です。前のジムでキツい思いをしたのに脚だけ変わらなかった、という相談が本当に多い。キツさは、追い込みやすい筋肉がどれだけ働いたかの目安であって、狙った筋肉が働いたかの目安ではないんです。
食事についても、報告義務のようなものは置いていません
食事の内容を全部提出してもらって細かく指摘する、というやり方はしていません。続かないからです。代わりに、その人の生活の中で無理なく変えられる点をひとつかふたつ決めて、そこだけ見ます。銀座で働いている方は会食が入りますし、それを禁止にしたら生活が成り立ちません。
たんぱく質が足りているか、朝に何も食べていないか、水分がどのくらいかといった大きいところが整うと、細かい計算をしなくても身体は動き出します。持病があって食事制限を受けている方は、必ず医師の指示を優先してください。
ある会員のケース:「怒られると思って来た」という方
40代の女性で、初回のときにずっと緊張していた方がいました。以前通っていたところで、回数をこなせないと空気が重くなる経験をしたそうです。
その方には、最初の3回はほとんど重さを持ってもらっていません。やったのは、椅子から立ち上がるときにお尻で押す感覚を作る練習です。3回目に「立ち上がるのが軽くなった」と言われて、そこから表情が変わりました。半年経った今も続いています。追い込まなかったから続いたのではなく、自分の身体で何が起きているかが分かったから続いた、というほうが正確です。
追い込むことに意味がある場面もある
誤解のないように書いておくと、強度を上げること自体は必要です。支える場所が整ったあと、筋肉そのものを大きく強くしていく段階では、しっかり負荷をかけないと変わりません。競技をやっている方なら、なおさらです。
問題は順番だけなんですよ。整える前に上げるか、整えてから上げるか。それだけで、同じメニューが逆の結果を生みます。
体力に自信がない人ほど、最初に見てもらったほうがいい
運動経験がないから恥ずかしい、という理由で先延ばしにしている方がいます。ただ、経験がない人ほどクセが単純で、変わり方が早いことが多いです。長く自己流でやってきた人のほうが、固まったクセをほどく時間が必要になります。
体力がないことは、ここでは不利になりません。むしろ、最初から正しい配分で覚えられるという意味では有利です。女性が最初に確認しておくとよい点は、女性向けパーソナルジムのページにもまとめています。
よくある質問
Q. トレーニング中にキツくて続けられなくなったら、どうなりますか?
止めていただいて構いません。フォームが崩れた時点で狙った場所から外れているので、そこから先を続けても意味がないからです。私のほうから止めることもよくあります。
Q. 追い込まないと痩せないのではないですか?
体重を落とす主な要因は日々の食事と活動量で、トレーニング1回の消費量ではありません。トレーニングの役割は、落ちていく過程で筋肉を残すことと、身体の使い方を変えて形を整えることです。ここを混ぜて考えると、追い込む以外の選択肢が見えなくなります。
Q. 週に1回のペースでも受け入れてもらえますか?
問題ありません。回数より、1回のなかで狙いが定まっているかのほうが結果に効きます。頻度は生活に合わせて決めるものだと考えています。
【執筆者】今村 雅史(銀座トレーニングラボ代表・パーソナルトレーナー歴20年以上)
進化学・神経科学に基づいたトレーニング指導を専門とする。NASM OPTIMA 2025・2026年度講師。


