銀座トレーニングラボの食事指導 ― 「引く」のではなく「足す」から考える理由
キーワード:食事管理 / 銀座トレーニングラボ 専門性紹介
公開日:2026年7月6日
食事制限しているのに痩せない。そういう相談を、24年間で数え切れないほど受けてきました。
「炭水化物を抜いています」「間食もやめました」「夜は食べていません」。
真面目な人ほど、こう答えます。でも、体は変わっていません。
なぜでしょうか。
「減らす」から入ると、なぜ続かないのか
実は、食事指導で一番よくある間違いは、最初に「減らすもの」を決めてしまうことです。
炭水化物を抜く。糖質を制限する。夜の食事を抜く。
どれも一時的には体重が落ちます。でも、ほとんどの人が3週間から2ヶ月で元に戻ります。
これは意志の弱さではありません。脳の仕組みの問題です。
心理学に「アイロニックプロセス理論」という考え方があります。1994年にダニエル・ウェグナーが提唱したもので、「あることを考えないようにしよう」とすればするほど、脳はそのことを強く意識してしまう、という現象です。
「炭水化物を食べてはいけない」と思うほど、脳は炭水化物のことばかり考えるようになります。そして、我慢の限界が来たときに、普段の何倍も食べてしまう。これがリバウンドの正体です。
制限は、脳にとって「敵」を作る行為なのです。
では、何から始めるべきか
銀座トレーニングラボで実践しているのは、「引く」のではなく「足す」アプローチです。
最初に決めるのは、減らす食品ではありません。増やす栄養素です。
具体的には、体重1kgあたり1.6グラムのタンパク質を、まず確保することから始めます。体重55kgの女性であれば、1日88グラムです。
これは、Morton et al.(2018年)のメタ分析で示された、筋肉の合成を最大化する摂取量の下限に近い数字です。
タンパク質を先に決めると、何が起きるか。
満腹感を作るホルモン、レプチンの分泌が安定します。逆に、空腹感を作るグレリンの分泌が抑えられます。結果として、間食への衝動が自然に減っていきます。
「食べてはいけない」という我慢ではなく、「先に満たす」ことで、後から自然に量が減る。これが、制限に頼らない食事管理の仕組みです。
満腹感は、量ではなく「速さ」で決まる
もうひとつ、見落とされがちな要素があります。食べる速さです。
満腹中枢が、胃からの信号を受け取って「もう十分」と判断するまでには、20分前後のタイムラグがあります。早食いの人は、この信号が届く前に食べ終えてしまうため、満腹感を得る前にカロリーだけを摂取してしまいます。
早食いの方に共通して見られるのが、ひと口あたりの咀嚼回数の少なさです。当ラボでは、食事指導の初期段階で、まず咀嚼回数を意識してもらうことがあります。何を食べるかを変える前に、どう食べるかを変える。これだけで、同じ食事量でも満足度が変わってきます。
ある会員の変化から
以前、担当していた40代の女性会員の例です。
彼女は、ジムに通う前に3社のパーソナルジムを経験していました。どこも「糖質は1日50グラムまで」という厳しい制限を提示され、最初の1ヶ月は結果が出るものの、必ず2ヶ月目に反動で暴食し、リバウンドするというパターンを繰り返していたそうです。
当ラボでは、まず糖質を減らす話は一切せず、タンパク質を1日90グラム確保することだけを最初の2週間の目標にしました。
彼女自身、「減らせと言われないだけで、こんなに気が楽になるのか」と話していたのを覚えています。3ヶ月後、体重の変化は緩やかでしたが、体脂肪率は着実に下がり、何より継続できていることが一番の変化でした。
現場で見てきた、もうひとつの理由
もうひとつ、24年の現場で気づいたことがあります。
食事の話をするとき、多くの人が「正しい食事」を探しています。でも、正しい食事というのは、実は存在しません。
働き方も、生活リズムも、消化機能も、一人ひとり違います。銀座で働くビジネスパーソンと、産後のお母さんとでは、食事の設計はまったく別物になります。
だから、当ラボでは初回のカウンセリングで、まず生活リズムを丸ごと聞きます。何時に起きて、何時に食べて、何時に寝るか。そこから逆算して、タンパク質をどの食事に配分するかを決めます。
「このメニューを食べてください」という一律の指導は、正直、簡単です。でも、それでは続きません。
具体的に何をすればいいのか
まず、1日の食事を3回か4回に分けて、それぞれにタンパク質源をひとつ入れることから始めてください。
卵、鶏肉、魚、大豆製品、プロテイン。難しく考える必要はありません。「このタンパク質、今日はもう食べたか」を意識するだけです。
炭水化物や脂質を減らすのは、その後で構いません。順番が逆になると、続かなくなります。
そして、LINEなどで日々の食事を記録し、フィードバックを受ける仕組みがあると、継続率は大きく変わります。当ラボのクライアントを見ていても、記録を続けた人ほど、3ヶ月後の体組成の変化が明確です。
トレーニングの日と休む日で、炭水化物の扱いを変える
タンパク質を確保できるようになった段階で、次に見直すのが炭水化物の配分です。
ここでも「一律に減らす」ではなく「配分を変える」という発想を使います。トレーニングを行う日は、運動によって筋グリコーゲンが消費されるため、炭水化物を普段よりやや多めに摂っても、脂肪として蓄積されにくい状態にあります。逆に、完全に体を休める日は、炭水化物を控えめにする。
同じ1週間の中でも、日によって炭水化物の量を変えるという考え方は、一律の制限よりもストレスが少なく、長期的に続けやすいという特徴があります。
「指導」ではなく「コーチング」と呼ぶ理由
当ラボでは、食事の話をするときに「食事指導」ではなく「栄養コーチング」という言葉を使っています。
指導という言葉には、正解を教える側と、従う側という上下関係が生まれやすくなります。しかし、続けるのは会員自身です。何を、いつ、どれだけ食べるかは、本人の生活の中でしか決められません。
コーチングという言葉を使うのは、答えを渡すのではなく、本人が自分の生活の中で選べる選択肢を一緒に整理する、という姿勢を明確にするためです。
食事の記録を見ながら、「この日は間食が多かったですが、何かありましたか」と聞くことがあります。責めるためではありません。行動の裏にある理由を一緒に探すためです。多くの場合、睡眠不足やストレスが背景にあり、そこに対処しない限り、食事だけを変えても長続きしません。
無理に完璧を目指さない
食事管理は、100点を目指すものではありません。
60点の食事を、3ヶ月続けられるかどうか。それが、100点の食事を3日で挫折することよりも、結果として体を変えます。
減らすことより、先に何を足すか。そこから見直してみてください。
【執筆者】今村 雅史(銀座トレーニングラボ代表・パーソナルトレーナー歴24年)
進化学・神経科学に基づいたトレーニング指導を専門とする。NASM OPTIMA 2025・2026年度講師。


