「腰痛改善のために腹筋や背筋を鍛えているのに、一向に良くならない…」
「マッサージに行っても、その場しのぎですぐに痛みがぶり返す…」
「そもそも、なぜこんなに多くの人が腰痛に悩んでいるのだろう?」
もしあなたが今、このような袋小路に入り込んでいるのだとしたら、それはあなたの努力が足りないからではありません。
問題へのアプローチが、根本的に間違っているだけかも。
こんにちは。
銀座でパーソナルトレーナーとして活動し、進化という壮大な視点から身体の不調改善もサポートしている今村雅史です。
やっているのは下半身痩せだけではないんですね。
この記事では、「なぜ、あなたの腰痛は一般的な筋トレだけでは治らないのか?」という疑問に対し、数百万年にわたる人類の進化の歴史をヒントに、その本質的な答えを提示します。
なぜ?あなたの腰痛は「筋トレ」だけでは治らないのか
「腰痛には体幹トレーニング」とよく言われますが、それでも改善しない人が多いのはなぜでしょうか。そこには大きな落とし穴があります。
問題の本質は、個々の「パーツ(筋肉)」の弱さだけでなく、「全身が連動して動く」というシステム全体の機能不全にあるからです。
理由1:システムが眠っていては、筋肉は働けない
私たちの身体は、歩行時に踵が着地する刺激がスイッチとなり、お尻や背中の筋肉が連動して働く「負荷分散システム」を備えています。
しかし、現代の「座りっぱなし」の生活は、このシステムを強制的に停止させてしまいます。
いくらお尻の筋肉を鍛えても、日常動作でその筋肉を呼び覚ます神経回路が眠っていては、宝の持ち腐れになってしまうのです。
理由2:多くの場合、腰は「被害者」である
多くの場合、腰痛は腰そのものが原因ではありません。
股関節や胸椎(胸周りの背骨)の動きが悪くなった結果、**その動きを腰が無理に補おうとする「代償動作」によって発生します。
つまり、腰はシステムの不具合のしわ寄せを受ける、いわば「被害者」**なのです。
腰だけをマッサージしたり鍛えたりしても、システム全体の不具合が改善されなければ、問題は何度でも繰り返されます。
真犯人は「進化」と「現代」の深刻なミスマッチ
では、なぜ私たちの身体のシステムは、これほどまでに機能不全に陥りやすいのでしょうか?
その答えは、**「動くことを前提に進化した体で、動かない生活を送る」**という、現代社会特有のミスマッチにあります。
ハーバード大学の進化生物学者、ダニエル・リーバーマン博士は、こうした不調を**「ミスマッチ病(文明病)」**と名付けました。
- 食事のミスマッチ:飢餓を乗り越えるために発達した「脂肪を蓄える能力」が、飽食の現代では肥満や生活習慣病の原因になっています。
- 運動のミスマッチ:一日中動き回ることを前提に設計された身体で、一日中座って過ごす。この極端な運動不足が、腰痛をはじめとする様々な不調を引き起こします。
- 環境のミスマッチ:ハイヒールのように、足が進化の過程で想定していなかった履物は、足の自然な機能を妨げ、全身の歪みに繋がります。
【プロの視点:あなたの指導経験を追記!】
銀座の企業に勤める40代の男性お客様の話です。
彼は週末のゴルフのためにトレーニングジムにも通い、一見すると非常にエネルギッシュ。
しかし、「鍛えれば鍛えるほど、スイング後の腰の痛みが悪化する」という深刻な悩みを抱えていました。
ということで当ジムの体験へ。
動きの分析やお話を聞いてわかったのは、まさにこの「ミスマッチ病」の典型です。
平日の長時間にわたるデスクワークと会議で、彼の身体(特に股関節とお尻)は完全に「座るモード」に固定化され、動きのシステムが眠ってしまっていたのです。
その状態で週末にゴルフをしても、眠っているお尻の筋肉は働かず、上半身の捻転の負荷をすべて腰だけで受け止めていました。
問題はゴルフの技術や筋力不足ではなく、平日と週末との間で身体のOS(オペレーティングシステム)が切り替わっていないことでした。
銀座のオフィスで働く30代の女性のお客様で、姿勢改善のためにピラティスにも熱心に通われている方がいました。
しかし、「ピラティスの最中は良い姿勢を意識できるのに、PC作業を始めるとすぐに猫背に戻ってしまい、夕方には肩こりと腰痛でぐったりしてしまう」と悩んでいました。
彼女の身体は、ピラティスによって個々の筋肉(パーツ)はしなやかに鍛えられていました。
しかし、デスクという環境が、身体のシステム全体に「動かなくていい」という強力な指令を送り続けていたのです。
彼女に必要だったのは、さらに筋肉を鍛えることではなく、PC作業中であっても足裏でしっかり床を感じ、お尻のスイッチをONにし続ける、といった「神経システムを再起動させる」ためのアプローチでした。
筋肉というハードウェアではなく、それを動かすソフトウェアに問題があったのです。
5億年の歴史が物語る、私たちの体の「設計思想」
私たちの身体は、完璧な工業製品ではありません。
それは、約5億年前に生きていたナメクジウオという祖先から始まり、既存の構造をその場しのぎで改良し続けてきた「器用な修理工(ティンカラー)」の作品です。
魚類のヒレが陸を歩くための四肢に、爬虫類の骨が哺乳類の耳の骨に転用されてきたように、私たちの身体には5億年分の進化の歴史が刻み込まれています。
だからこそ、食べ物が気管に入るリスクがあったり、二足歩行で腰に負担がかかったりといった、「設計ミス」に見える部分もあるのです。
しかし、重要なのは、その「欠陥」を補って余りある、精巧で統合された「動的システム」として進化してきたという事実です。
私たちは「システム」だからこそ、賢く動く必要がある
ここまで見てきたように、私たちの身体は独立したパーツの寄せ集めではなく、**5億年以上の進化の歴史が刻み込まれた、統合された「動的システム」**です。
現代の不調の多くは、このシステムの「設計思想(=動き回る生活への適応)」と、現代の「使用環境(=動かない生活)」との間に生じた、深刻なミスマッチに起因しています。
この視点を持つことこそが、無数の健康情報に惑わされず、あなたの身体にとって本当に必要なことを見抜くための「羅針盤」となります。
それは、単に腰の痛みを和らげるだけでなく、眠ってしまった身体のシステムを再起動させ、自分という存在を深く理解し、大切にすることに繋がるはずです。
では、この驚異的なシステムを再起動させるために、私たちは具体的に何をすれば良いのでしょうか?
次回の記事【第2回】では、その具体的なヒントについて解説していきます。


