「週に何度もジムに通っているのに、身体が思うように変わらない…」 「スクワットの重量は伸びるのに、日常の動きのぎこちなさは改善しない…」 「身体の特定の不調が、どんなトレーニングをしても無くならない…」
そんな**「努力と結果が比例しない」**という壁に、あなたもぶつかっていませんか?
こんにちは。【第1回】の記事に続き、今回も進化という壮大な視点から、あなたの身体の可能性を最大限に引き出すためのヒントをお届けする、銀座のパーソナルトレーナー今村雅史です。
結論から言えば、あなたのトレーニング効果が頭打ちになっている原因は、個々の「筋肉(パーツ)」ばかりを鍛え、身体全体の「動きのシステム」を無視しているからです。
では、どうすればそのシステムを再起動できるのか?その答えは、驚くべきことに**「動物たちの洗練された動き」と、私たち誰もが経験したはずの「赤ちゃんの成長過程」**の中に隠されています。
なぜ動物の動きに学ぶのか? “形”は“目的”が作る
動物の身体は、彼らが生きる「環境」と「食」、つまり「生き残るための目的」によってデザインされた、機能美の結晶です。
- 草食動物(馬など):捕食者から「逃げる」目的のため、直線的なスピードと持久力に特化し、一本指の蹄(ひづめ)を進化させました。
- 肉食動物(チーターなど):「狩る」目的のため、俊敏な方向転換を可能にする、しなやかな背骨と短い胴体を持っています。
- 霊長類(サルなど):木の上で「掴む」目的のため、手足の指や肩甲骨が自由に動くようにできています。
私たちヒトは、地上で「二足歩行」する目的のため、足は安定した土台となり、自由になった手は道具を使うために複雑化しました。
この比較解剖学的な視点を持つことで、私たちは他の動物たちの動きから、**人間が現代生活で眠らせてしまっている身体機能(例:チーターのような背骨のしなやかさ)**を目覚めさせるヒントを学ぶことができます。
私たちの内に眠る最強のプログラム「赤ちゃんの成長過程」
驚異的な動物たちを見た後で、私たち自身の内に目を向けましょう。実は、最も合理的で洗練されたトレーニングプログラムは、あなたの身体の中にすでに眠っています。 それは、**私たちが赤ちゃんの頃に誰もが経験した「発達のプロセス」**です。
「原始反射」から「随意運動」へ:神経システムの土台工事
生まれたての赤ちゃんは、首も座らず、自分の体を意のままに動かせません。しかし、そこから寝返り、四つ這い、そして歩き出すまでの一連の過程は、遺伝子に組み込まれた、**最も自然で効率的な「神経と筋肉の接続プログラム」なのです。 この初期段階では、触れると握る「把握反射」のような無意識の「原始反射」**が、神経回路の基礎工事の役割を果たします。
なぜ現代人はこのプログラムに不具合を抱えるのか?
脳が発達するにつれ、これらの反射は高次の脳によってコントロールされ、自分の意思で身体を動かす「随意運動」へと移行(統合)していきます。 しかし、幼少期から椅子に座ることが当たり前の現代生活は、この自然な発達プロセスの一部をスキップさせてしまうことがあります。その結果、統合されるべき原始反射が体に残ってしまい、原因不明の体幹の不安定さや、動きのぎこちなさの根源的な原因となっているケースが少なくありません。
これこそが、単に腹筋を鍛えるだけでは身体が変わらない、根深い理由なのです。
盲点だった「眼」の役割:動きはインプットで決まる
そして、もう一つ。私たちの「動き」を生み出しているのは、筋肉(アウトプット)だけではありません。 **眼から入る空間情報という「インプット」**があって初めて、脳は適切な動きを指令できます。
遠くの獲物を追い、仲間と視線を交わすために進化した私たちの眼は、今やそのほとんどの時間を、数十センチ先のスマホ画面を凝視することに費やしています。空間を正しく認識する眼の力が衰えれば、いくら体幹を鍛えても、バランス能力や全身の連動性は十分に発揮されません。
本気で身体を変えたいなら、システムの再起動を
ここまで見てきたように、私たちのトレーニング効果が頭打ちになる原因は、多くの場合、
- 動物的な、しなやかな全身の連動性を失っている
- 赤ちゃん時代の、神経系の発達プログラムに不具合が残っている
- 眼をはじめとする、身体へのインプット機能が低下している
という、「システム」の問題にあります。
この視点を持つことで、あなたは無数のトレーニング情報に惑わされることなく、自分の身体にとって本当に必要なアプローチを見つけ出すことができます。それは、眠ってしまったシステムを再起動させ、あなたという存在そのもののポテンシャルを解放する、本質的な旅の始まりです。