正しいフォームにこだわるほど体が壊れる理由
「膝を90度に曲げて」「背筋をまっすぐにして」「つま先と膝の向きを揃えて」
トレーニング指導の現場でよく聞く言葉です。でも、これらの「正しいフォーム」は誰が決めたのか、考えたことがありますか。
何となく「科学的に正しいこと」として受け入れていませんか。実は、この「正しいフォーム」という概念に、大きな落とし穴があります。
骨盤の形は人によって違う
人間の骨盤には個体差があります。股関節の向き、深さ、角度が人によって異なります。
大腿骨の形も同様です。前捻角と呼ばれる、大腿骨のねじれ角度は、人によって大きく異なります。ある人は内向きに傾き、ある人は外向きになっています。その角度は同じ人でも左右で違うことがあります。
全員が「つま先を正面に向けてスクワットをする」ことは、全員が同じサイズの靴を履くことと同じくらい無理な話です。
体の骨格に合っていないフォームで負荷をかければ、関節に余計なストレスがかかります。膝の痛み、腰の痛み、股関節の違和感。「筋トレを始めたら体が痛くなった」という経験の多くは、ここから来ています。
二足歩行という進化の産物
人間が完全な二足歩行になったのは、進化の歴史から見ると比較的最近のことです。
四足歩行から二足歩行への移行は、骨盤の形を大きく変えました。産道の確保と歩行能力のバランスを取るために、骨盤は複雑な形状になりました。その結果として生まれた個体差は非常に大きく、「標準的な骨盤」というものはほとんど存在しないと言っていいほどです。
それにもかかわらず、「正しいスクワットのフォーム」として一律の形が指導されている。ここに根本的な問題があります。
「正しいフォーム」はどこから来たのか
現代のトレーニング指導で「基本」とされているフォームの多くは、1940〜60年代のボディビルの文化から来ています。
ジョー・ウェイダー(Joe Weider)という人物が確立したボディビルのトレーニング体系が、その後のフィットネス業界全体に広がっていきました。でも、ボディビルダーの目的は筋肉を最大限に発達させて見た目を整えることです。その人たちの体を基準にした指導法が、ダイエット目的の一般の人にも、痛みを抱えた人にも、骨格の異なる人にも、そのまま適用されています。
「なぜこのフォームが正しいのか」という問いをちゃんと立てると、実は「そういう伝統だから」という答えに行き着くことが多いです。
できない動作に負荷をかけるな
アメリカのスポーツ科学者グレイ・クックは、「できない動作に負荷をかけるな(Load patterns that limit movement)」という考え方を示しました。
これは単純ですが本質的な原則です。もし正しいフォームができない体の状態にあるとすれば、そのフォームで負荷をかけることは、制限された動きにさらにストレスを加えることになります。
多くのジムでは、体の動き方の評価なしにトレーニング指導が始まります。「とりあえずスクワットをやってみましょう」という流れです。その人の股関節の動き方、骨盤の傾き、足首の柔軟性などを確認せずに、形だけを教える。その結果として痛みが出ても、「フォームが悪かったから」と言われます。
でも本当の問題は、その人の体の状態を評価せずにトレーニングを始めたことです。
「正しいフォーム」より「この体に合ったフォーム」
骨格に個体差があるように、最適なフォームにも個体差があります。
スクワットでの足幅、つま先の向き、しゃがむ深さ。これらはその人の股関節の形状と可動域によって決まります。教科書通りの角度ではなく、その人の関節が自然に動ける範囲が「その人の正しいフォーム」です。
銀座トレーニングラボでは、最初に動作評価を行い、その人の股関節の動き方、体の重心の偏り、筋肉の使い方のクセを確認します。その上で、負荷をかける前に動作のパターンを整えます。
「世界標準の評価法をダイエット目的の一般の方に適用する」。これは大げさではなく、体を傷めずに変えるための最低限の手順です。
フォームへの執着を手放す
「正しいフォームでできているか」を気にしすぎると、もうひとつの問題が起きます。体の感覚ではなく、外見の形ばかりを意識するようになります。
鏡で確認しながら、頭の中で「膝が90度になっているか」と考えながら動く。これでは体本来の感覚が鈍くなります。
トレーニングの本来の目的は、体の感覚を磨きながら動けるようにすることです。決まった形に体を合わせることではありません。
痛みが出たとき、体が張りすぎているとき、違和感があるとき。それは体が「このやり方は合っていない」と伝えているサインです。そのサインを無視してフォームを直そうとするより、まずその体の反応を聞くことが先です。
体は正直です。「正しいフォーム」より、体の声のほうを信頼してください。


