産後の体型回復を「急ぐ」ことが、一番の遠回りです
産後、早く元の体型に戻りたいという気持ちはよくわかります。
鏡を見るたびに気になるお腹。妊娠前のジーンズが入らない。育児でへとへとなのに、自分の体まで気になってしまう。
でも、産後の体に「焦り」は禁物です。これは精神論ではなく、生理学的な話です。
産後の体に何が起きているか
出産は、体にとって相当な負荷です。
腹壁の筋肉(特に腹直筋)は妊娠中に引き伸ばされ、産後も完全には戻っていない状態が続きます。腹直筋が左右に開く「腹直筋離開」は産後の女性の多くに見られ、その程度は人によって異なります。
骨盤底筋群は出産で大きなダメージを受けています。膀胱・子宮・直腸を支えるハンモック状の筋肉群で、ここが弱まると尿漏れ、臓器の下垂感、腰痛、そして体幹の不安定さにつながります。
ホルモン環境も激変しています。授乳中はリラキシンというホルモンが続き、関節の緩みが残ります。この状態で過度な負荷をかけると、関節を傷める可能性がある。
これだけの変化が起きている体に、産後1〜2ヶ月で「きつい腹筋運動」や「激しいランニング」をするのは、建物の基礎工事が終わっていないのに外壁を塗り始めるようなものです。見た目は変わっても、中から崩れます。
「産後3ヶ月から」という目安の根拠
産後のトレーニング開始の目安として「3ヶ月後」と言われることがありますが、これには理由があります。
まず、産後検診(6〜8週目)で医師から運動の許可が出ること。帝王切開の場合はさらに回復に時間がかかります。
次に、骨盤底筋群がある程度回復するのに最低8〜12週かかること。この期間に高負荷の動きをすると、骨盤底筋のダメージが悪化することがある。
3ヶ月はあくまでも「始められる可能性がある」時期であって、「すべての人が3ヶ月から始めていい」わけではありません。特に産後の回復が遅かった方、帝王切開だった方、授乳中でホルモンの影響が続いている方は、それぞれの状態に合わせる必要があります。
私が産後の方に最初に確認するのは、産後検診の結果と、現在の骨盤底筋の状態です。状態を評価してから何をするかを決める。そのステップを省略して「とりあえず腹筋から」は絶対にやりません。
産後に先にやること
では産後に何から始めるか。
まずは呼吸の再獲得です。妊娠中は子宮が横隔膜を押し上げるため、呼吸が浅くなります。産後も横隔膜が適切に動けていないことが多く、これが体幹の不安定さにつながっています。
横隔膜と骨盤底筋は連動して動きます。横隔膜が下がるとき(吸うとき)、骨盤底筋も緩む。横隔膜が上がるとき(吐くとき)、骨盤底筋も引き上がる。この連動を取り戻すことが、体幹を安定させる最初のステップです。
腹式呼吸や横隔膜呼吸の練習は地味に見えますが、ここが整っていないと何をやっても「体幹を使えていない状態」でのトレーニングになる。
次に股関節の動かし方の回復です。妊娠中は重心の変化から股関節の可動域が制限されていることが多い。股関節が動かせないと、お尻の筋肉を使えない。お尻の筋肉が使えないと、代わりにもも前(大腿四頭筋)が過剰に使われる。もも前が張る、脚が太くなる、膝が痛い、腰が痛い。このすべてが連鎖します。
「体重」より先に変えるべきもの
産後の体型回復を「体重を元に戻すこと」として捉えている方が多いですが、これは目標設定として少しずれています。
体重は筋肉量・脂肪量・水分量・骨量の合計です。産後は筋肉量が減っている一方で、水分やホルモンの変化で体重の変動が大きい。体重計の数字に一喜一憂してもあまり意味がありません。
それより先に変えるべきは「動きの質」です。
股関節がちゃんと使えているか。体幹が安定しているか。骨盤底筋が機能しているか。これらが整ってきたとき、体型は自然と変わり始めます。外から見える変化より、内側の機能回復が先です。
これは遠回りに見えて、実は最短ルートです。機能を無視して見た目だけを変えようとすると、どこかで必ず止まる。
授乳中の食事について
授乳中のカロリー需要は通常より300〜500kcal増えます。食事を極端に制限すると、母乳の質と量に影響が出る可能性があります。
産後の食事で意識すること、私がよく伝えるのは「引き算ではなく足し算で考える」ということです。
何を食べないかではなく、何を足すか。タンパク質、鉄分、カルシウム、DHA。産後と授乳期に不足しやすいこれらを意識して足していく。結果として食事の質が上がり、不必要なものが自然と減る。
厳しいカロリー制限は産後の体には向きません。体が「足りない」と感じると、代謝を落として余分なものを溜め込もうとする。それが逆に体型回復を遅らせます。
産後の体型回復に必要な時間
正直に言います。
産後の体が完全に回復するには、一般的に1〜2年かかります。
妊娠前の体型に戻ることを目標にするなら、1年という時間軸で考えてください。3ヶ月でどうにかしようとすると、体に無理がかかる。
それでも、3ヶ月後から始めて6ヶ月後には「明らかに変わった」と感じられます。体型より先に、動きやすくなった、疲れにくくなった、腰痛が減ったという変化から始まります。
銀座トレーニングラボでは、産後の方に対して焦らせることはしません。いまの体の状態を正直に評価して、何ができて何はまだやるべきでないかを一緒に確認しながら進めます。急ぐことより、正しい順番で進むことを大切にしています。
【執筆者紹介】
今村 雅史(Masafumi Imamura)
銀座トレーニングラボ代表。「一生モノの美脚」を提案するパーソナルトレーナー歴24年の動作改善スペシャリスト。
延べ数千名の指導実績を持ち、プロ選手やJリーガーなどトップアスリートのパフォーマンス向上を支援。
現在は中学校女子バスケットボール部のコーチを務めるほか、国際的なトレーナー教育機関「NASM OPTIMA」にて2025年、2026年と2年連続で講師として登壇しています。
進化学・神経科学に基づいた専門知識と豊富な現場経験から、あなたの身体の「なぜ?」を根本から解決します。
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